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Yaleで、遊んで学ぶ日々。

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囲碁、ときどきプログラミング、ところにより経済。
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1泊2日、移動時間計13時間の強行日程ながら、国際法模擬裁判の世界大会「Jessup 2012」を観戦すべくDCへ行った。残念ながら桜はすでに散ってしまっていた。例年よりも2週間早かったらしい。→問題について


今年の日本代表は京都大学で、国別予選2・3位の早稲田大学大阪大学はexhibition team(?)として参加するらしい。各国の代表枠は予選参加チームの数で決まるが、日本の場合それが14で、代表枠が2枠になる基準まで僅かに届かないところらしい。つまり、競争率が最も高い国の1つになっていて、それが理由で特別参加に招かれたのかもしれない。タイトルを争わない親善試合を戦うから exhibition teamと呼ぶのだろうけど、観客は身内だけなんだからそれも変な話だ。ちなみに、予選をパスした国代表は competitive teams という。


京都、早稲田をそれぞれ1試合ずつ観戦することができた。特に、京都の対戦相手はフィリピン代表で、惚れ惚れする弁論だったのだが、後で調べると準決勝まで勝ち進んでいた相当な強豪だったようだ。→大会結果へのリンク



日本の2チームは、主張の構成こそ大分違うが、弁論の展開のしかたがよく似ている。おそらく、模擬裁判かくあるべきとして、日本で蓄積され、教えられ、信じられている日本流の型なのだと思う。その型とは、ひとことで言うと、「固い」あるいは「静的」なのである。明文規定のないところにも要件を提案し、これが判断基準であるとしてその一線から一歩も引かない弁論をする。法的な主張は、まず一般論を議論し、そこへ事実を当てはめて結論を導く、という三段論法の形をしているのだが、どうも日本の型というのは、一般論で苦労をして当てはめで楽をするというスタイルのようだ。

このスタイルの利点は、主張に曖昧さが残らないところにある。カチカチの一般論を主張するから、それさえ認められれば100対0で勝つ論法だ。逆に、一般論に多少の不明瞭性を残すと下手をすると水掛け論に陥いるリスクがあるので、これを避けるためのスタイルでもある。ただし、普通の模擬裁判では(問題がまともであれば)、100対0で勝つ論理はあり得ない。

フィリピンの選手を見ていて感じたのは、曖昧さを残しつつ水掛け論にさせないスカシの技術を持っているということだった。「それじゃぁ君の主張が正しいとは言えないんじゃないの?」と指摘された時も、たとえば「でも私の言っていることも悪くないでしょ」と、さらっと(勝手に)要求のラインを下げる。結局、対戦相手と比べて相対的に正しければ勝ちであって、目指すのは51対49で構わない。フィリピンは対戦相手と戦っていた。一方、日本の型は神と戦っている。

実際、審査をする裁判官の方は、露店で値段交渉をするようなつもりで法廷に入ってきている(少なくともそういう人が多い)。弁論者の主張を聞いて、多少ケチがついて、いやいやそこを何とか、と綱引きをして、どのあたりで納まるかな、という展開を期待している。動的で柔軟な議論を楽しみにしている。それが、一箇所にとどまってテコでも動かんぞという弁論に出会って多少面食らっている、というのが僕が日本チームの試合を見た時の印象だった。



法は少なくとも短期的には静的な存在だが、結局のところその本当の姿を誰も知らない(そういうものを哲学ではイデアと呼ぶのだったか)。だから、法の適用や法による判断は(その本来の姿に反して)、動的であるほうが自然だと思っている。往々にして、静的な理想像から出発し、まずそちらを完璧にしてから、適用段階になって徐々に動きを出そうとすると、妙な論理破綻を起こしやすいのではないか。例えば、経済学はそういう理論体系をしている。


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もし都合がついたら今年はDCへJessup観戦にいってみよう(今年は京大が日本代表、母校早稲田は何か特別枠で参加するらしい)、ということで問題文を読んでみた。→問題文はこちら


読んでみての感想・・・めちゃめちゃ難しいんじゃないか、これ・・・。すごい複雑。管轄権・主権免除・国家承認・武力行使・国際機構法など、国際法のあらゆる分野が盛り込まれているし、さらに独自につくられた架空の条約の解釈も行わなければいけない。

王道中の王道、重量級の問題だ。このテーマで国際大会に出られる後輩達が羨ましくもある。


事件概要。
The Case concerning the Temple Mai-Tacao

* 事件名に出てくる寺院は、AとRの間に位置する何やら重要な文化遺産で、この帰属を巡って数十年前に戦争があった。結局、この寺院はA側に帰属する、ということで合意し、今に至る。また、その寺院は今では世界遺産に認定されている。

* 実は、その戦争の最中、Aの軍人がRの農民に強制労働を課していた、ということが分かっている。しかし、終戦条約では、戦争中における行為についての国家および私人による訴訟を互いに放棄する旨の条項がある。

* 後にRは、他の数カ国と地域的人権条約(ENC)を結んだ。このグループはのちにENIという経済協力機構を構成し、最近成長中。

* 最近Aの大統領に就任したGreenさんは、ENI寄りの政策を取る。まず、ENCに加盟(acceded)、ただし、ENC人権裁判所の強制管轄権に関する条項だけは、ENI加盟が承認されるまで留保した。


ここまでは、すごく平和。すべてが順調だったのだけど・・・


* 戦争中の強制労働を描いた映画が公開され、社会の関心を集める。

* この強制労働問題について、人権団体がAで訴訟を起こそうとしたところ、終戦条約の放棄条項を理由に棄却された。そこで今度はRで訴訟を起こそうとしたところ、同じ理由で棄却された。

* そこで、その人権団体はENC裁判所に提起する。すると、「第3国との条約を理由にENCの義務を免れない」として、Rに裁判の見直しを要求する結果。これを受けて、Rは国内裁判を再開し、結局人権団体の主張を認める判決を出す。

* このあたりから、Aの国内情勢が怪しくなってくる。Green大統領のENI寄り政策が批判され始める。色々あって、結局クーデターが起こってAndler将校が暫時政府をつくる。GreenさんはRへ亡命し、そこで亡命政府樹立を宣言する。

* Andler政権は、A国内のGreen支持者の集まる村を攻撃し、文民を含む死人が出る。ENIはAndlerの軍事施設を爆撃する。

* Andlerは寺院のあるあたりに潜伏し、「これ以上攻撃すると、この世界遺産を壊すぞ」と脅す。ENIは攻撃を止めなかったので、実際に世界遺産の一部が破壊された。そうしたらENIも攻撃を止めた。

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論点
(a) Andler政権は正当な政府であるか、したがって、A国を代表してICJにて争うことができるか。
(b) Rは、Aの軍事施設空爆につき国家責任を負うか。
(c) R国内裁判所による、過去の戦時中の強制労働についての判決は国際法に反するか。
(d) Aによる寺院の破壊は国際法に反するか。


整理
(a) は国家承認の問題か。勉強したことはないからさっぱり分からない。
(b) はNATOによるユーゴ空爆を連想させる。そのあたりがリーディングケースか。また、亡命政府がRにあることで、「同意」があったという主張もありえる。攻撃がENI名義で行われた、という点については、NATOの事例からしても難しいと思う。
(c) まず終戦条約とENCの矛盾が1つのポイント。「後法は前法を廃す」の理屈で言えば、ENCが優先する。一方「特別法は一般法に優先する」の法理でいくと、終戦条約の方が特別法であるので、終戦条約が適用される。また、主権免除の問題もあって、R側は人権侵害に関しては主権免除が適用されない旨を主張するのだろう。
(d) これは・・・どうなんだろう。自国内の世界遺産を破壊した、という事件なので、スタンディングの問題がありそうな気がするが。そこが解決したとして、あとは緊急避難あたりがポイントか。


この夏のもう1つのイベントは、国際法模擬裁判大会 Asia Cup Japan Round の裁判官(審査員)を務めるというもの。僕はこの大会のOBで、学部生時代に出場経験がある。卒業後に大学院生になったり法律関係の仕事に就いたりしていると、裁判官役が回ってきたりする。今回で2年ぶり3回目である。

少しばかり宣伝しておくと、この大会では架空の2国間での法的な国際紛争が発生し、その紛争が国際司法裁判所へ持ち込まれたという問題が与えられる。で、原告・被告それぞれの代理人という立場に立ってどういう主張を展開するか、という形で競い合うのである。詳しくは、数年前に書いた紹介文がまだweb上に残っているのでそちらを参照のこと。準備書面および弁論で勝敗を決するのだけど、大学院生に回ってくるのは弁論の審査である。原告・被告がそれぞれ弁論するのだけど、ディベートのように両陣営が議論を戦わせるというよりは、裁判官に向かって法的な理由付けを説明し、どちらがより説得的であったかが審査されるという形で、口頭試問に近い。弁論中には裁判官が弁論者に対して問いを投げかけるので、それらに対してどれだけ適切に答えきることができるかで評価が決まる。

自分が出場したのは2003年なので、もう6年も前か。当時の自分を思い返せば恥ずかしくて偉そうなことも言えないのだけど、やはりプレゼンテーションのスキルがもう1つかな、という印象をもった。本来、弁論は自由で、審査する裁判官を説得するために最良なものを自分で決めてよいはずなのだけれど、どうも「国際法模擬裁判用の弁論のしかた」みたいなものが染み付いているようだ。定型の弁論をすると最低限の体裁をつけるこができて、模擬裁判における最もシンプルな手段ではあるのだけど、より良い弁論がというのは別に必ずあるはずである。自分なりのアレンジをする場合に大切なのは、審査員と同じ視野・問題意識に立つということだ。視野を共有さえできれば、形はどうあれ議論を理解しあうことができる。自分が最も説得力があると思える弁論のしかたを選んで問題ない。視野の共有に必要なのは、審査側と同程度以上に問題を理解することだ。そういう意味で、この模擬裁判におけるプレゼンテーションの技術は結局のところ理論の理解度に負うところが大きい。質問に対する瞬発力や言葉遣いの上手さは、深い理解があってはじめて生きてくる。

専門分野が法学でないにも関わらず、いまだに声をかけてくれるのはとてもありがたい。経済学と法学のオーバーラップとしては、「法と経済学 (Law and Economics, Economics of Law)」というのが確立されているけど、これは主として制度設計に関する話で、国際法(ここでは国際公法を指す)への適用には直接関係がない。法と経済学で主に考えられているのは、法律を国家権力により裁判・行政措置を通じて履行される資源配分とみなし、どのような配分のもとで各人の望ましい行動が誘導されるか、という問いで、よく使われるツールはゲーム理論である。ゲーム理論では、各人の行動(action)と、行動に応じて決まる結果(payoff)が与えられた状況下での行動選択(strategy, behavior)を理論化するので、ぴったり当てはまるわけである。つまり、ある行動に対してどのような結果を付与するか、というゲームの構造が法律に該当する。

国際法に直接適用できない最大の理由は、その法律を履行する権力主体が存在しないことだ。世界政府のようなものが存在しないので、各国家に対し強制的に何かを履行することができない。国際法の履行は、大抵国家群の共同行動による自主的なものである。経済制裁や武力行使がそれに該当して、法による支配とは質的に異なる。違反する主体と裁く主体が対等関係にあるのである。

で、支配主体が存在しない状況もゲーム理論による記述は可能である。協力関係の自主履行(self enforcement)に関する議論がそれで、典型的な例は企業間の共同での価格引き上げなどだ。同じ産業に属する企業が共同して価格を引き上げる約束をした場合、これはカルテル行為に該当し、独占禁止法違反になる。一企業が約束を反故にして価格を据え置いたとしても、他の企業は契約違反として訴えることはできない。公序良俗に反する契約として無効扱いになるためである。したがって、法による履行が得られないため、その約束の履行は専ら自主履行によることになる。

ゲーム理論がこうした契約関係の成立に対して与える理由付けは、長期的な協力関係だ。1度約束に反して低価格をつけると、一時的には他社から需要を奪うことができるが、その後はカルテルを組むことが難しくなり厳しい価格競争さらされることとなるので、長期的な視野から協力(共謀)するという理屈である。国際関係にもそのアナロジーが適用できる。勝手な行動を取り続けているとか他国から制裁をうける恐れがあるので、国家は強制主体がいないにも関わらず国際法を自主的に遵守する。では何故遵守しない国家が未だに存在するのか? もちろん自主履行可能な契約とそうでない契約がありうる。その基準の理解こそが、研究課題になる。トリビアルな説明は、制裁措置の有効性や、違反から得られる利益の高さなどだろうか。

国際法をこういうふうに捉えると、どうもいわゆる国際関係(international relation)と呼ばれる分野との差異がないように思える。実際リアリスティックな発想で考える限りは両者に違いはないと僕は思っている。経済学はそれ自体が相当にリアリスティックな学問なのである。

と、いうような研究は今のところ一部の国際法学者が関心持ち始めたところのようである。国際法専攻の友人が紹介してくれたのはGoldsmith and Posner による本University of Illinois Law Reviewの2008年1号では特集が組まれたらしい。この分野を博士論文のテーマにするかどうかは現在思案中。
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